久方の記載となったが読んでいなかったわけではない。
本業に時間がとられ書評の時間が取れなかった。
それはそうと、知念実希人狙いで『奸計の遁走曲』を手にしたのだが、その中の収録作品「花うた」=一穂ミチ にかなり衝撃を受けた。
「花うた」は書簡体小説といわれる形式で書かれており、刑期中の秋生と、秋生に突き飛ばされて死んでしまった被害者の男性の妹・深雪との手紙のやり取りで話が進んでいく。
秋生は半官半民の刑務所(この存在は初めて知ったのだが)に収容されている。深雪の整った文章とは裏腹に手紙の内容もつたなく漢字もあまり書けない秋生。これまでの生い立ちや振る舞いから始まり次第に罪を深く認識できるようになっていく。
そしてあと少しで両者が出会うという寸前、以前悪事の際の仲間に刑務所内で突き飛ばされて脳に障害が出始め、秋生の記憶はどんどん欠けていく。
やりとりの中で出てきた「バロック・ホーダウン」も何か物悲しくなってしまう。
秋生のこの曲に対する表現もキラキラから頭痛がすると変化する。
「ぼくは、たくさんのことをわすれて、わすれたこともわすれて」
この表現が一番印象的だ。