『硝子の塔の殺人』=知念実希人

新薬の研究で成功を収めた神津島は熱狂的なミステリマニアでもあった。その神津島が建てた11F建ての美しい硝子の塔で重大発表をするということで集められた9人。発表30分前、神津島に深い恨みを持っていた専属医師・一条遊馬が神津島を毒殺する。これを皮切りに第2、第3の殺人が起き、そしてそのどれもが密室であったため、集められた9人の中で名探偵を名乗る偏屈な女・碧月夜がその謎を解明していく4日間をいつものように間髪入れず描いていく。
3/4くらい読み進めていくと結論になる雰囲気なのだがまだまだページはある。今回の結論は薄々気づいてしまったので、帯にあったような、ああびっくりした、ということにはならなかったが、なるほどとは思った。
最初に塔のおおまかな立体図があるところは時限病棟を思わせる。しかし本書は医学の知識の代わりにミステリの歴史ともいえる知識がふんだんに盛り込まれていた。また、いつも魅せられる武術の細かな描写も今回は月夜が合気道で遊馬を極めるところにとどまっていた。何より月夜の鼻につく偏屈ぶりに抵抗があり読み進めるのに苦労した。確かに読み終わった後でも再度復習読みをしたい気持ちにはなったが、月夜の両親の件に関しては予想の範囲であったため私の知念作一番とはならなかった。知念実希人のミステリに対する博識ぶりが味わえる一作だった。

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